日本の国民総生産は世界第三位、国民所得が第二位に上昇するが、その富と○も離れたところに国民の住宅があった。広くて環境のよい団地の約三〇坪の地権は、高度経済成長を支える都市の新中間層にとって憧れの的たった。「グループーサウンズ」の軽快な歌声がどこからともなく聴こえてきた。これで半永久的に住宅難から解放され、楽しい家庭が築ける……。水越は、真新しい団地の棟と棟を何度も往復し、階段の昇降をくりかえした。それまで三鷹市の公団賃貸住宅で妻と幼い娘ふたり、家族四人で暮らしていたが、長女の小学校入学を機に稲毛海岸三丁目団地の分譲に応募した。三十四歳での決断だった。一部上場企業の社員とはいえ、月給は二万五〇〇〇円。新居の購入価格は三九六万八六八〇円で年収の一〇倍以上である。二二〇万円を、会社が発足させたばかりの住宅資金融資制度を利用して借り入れ(一五年返済)、親から借りた二〇万円と合わせて二五〇万円の一時金を支払った。残り一四六万円余りは、公団からの借り入れだった(二〇年返済)。企業は社員に「持ち家」を勧め、住宅ローンを組ませて忠誠心を高める。家を媒介にして企業と社員は強く結びつき、経済発展に邁進する。